俺が寝ると、オレは起きる。
俺が起きていても、オレは起きる。
同時に、同じ世界で存在する二人。
だが、交わることの無い二つの存在―――



「という設定はどうだ?

「いや、たかが仮想にそんな裏設定はいらんっ!

斎藤の意見を即却下する。
どうやら、今日はハロウィンらしい。
斎藤はその為の衣装(ミニスカ魔女)を自作して、尚且つ俺に着せようと近付く。


「蘭、おとなしくしろっ!

ガシリと、後ろから柳野に捕まる。
前から来た斎藤が忍び寄る。


柳野も斎藤も俺より20cmは背が大きい。
特に、斎藤はどこぞの軍隊に入ってるのかと訊きたいくらいに、筋肉が発達している。

「〜〜〜〜〜っ!

音も無く、里居がカメラを連写する。

「ちょっ、写真消せよっ!後で絶対に消せよ!

里居は少し頬を染め、


「蘭………萌え」



まずい、

休み時間の教室の中で、
クラスメイト達の視線の中、斉藤は俺のベルトに手をかけ…



「来っっるな!!

「グフッ」

俺の振り上げた右足は、斉藤の顔に直撃し、
更にその余力で俺は回る。

捕らえられていた腕を支点にし、
クルリ、と回転して、

「それっ、冗談にならなっ…」

柳野の頭に蹴りをかます。
バタバタと倒れていく暴漢たち。

「うぉ、すげ〜」

「オーバーヘッドみたいだったぞ、今の」

「ってか、私はあの二人の応援を秘かにしてたんだけど」

…好き勝手に言う傍観たち。


「…着ろ。」

…里居は俺に強要してきた。


「いやいや、せめて魔女じゃなくて魔法使いだろ…」

「…着ろよ。」

……里居は懲りなかった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
で、部室


部室に入ると、里居がいきなり口を開いた。

「先輩、蘭がコスプレしない。」

ちょっ、いきなりこいつは何言ってる!?

「「!!」」

人害姉妹は俺を睨む・・・睨む!?

「いやいや、そんな『まじかよ、信じられないぜ』みたいな顔で睨むなよ。」

「「あぁ??」」

…………

「って、柳野が呟いていました。」

「「ほう?」」

すまん、柳野。

「いや、遠いだろ!
聞こえないだろ!普通は。」

「そんな位置設定は無い。」

ジンガイはユウジンへおそいかかった。
ランはすこしのへいわをえた。

「着てよ、斎藤の自作服」

「さっきからそればっかだな、おい!

それにしても、最近やけに里居が話しかけてくるな…

「メルアドも貰ったし?

いや、教えてない。

「毎日、メールしてるのに?

何て?

「…萌え。」

「ってそれ、迷惑メールだろ!
ってか、最近、やけにそんなメール多いと思ったら、お前かよ!
いちいちアドレス変えて送ってくるな!拒否できないだろ!
あと、心の中で会話が成立するのは気持ちが悪いから、心を読むな!



里居はスケジュール帳らしき物を取り出すと、
何かを書いていく。

「……」

メモメモ

「……」

メモメモ

「何を書いてるんだ?

沈黙に耐え切れなくなって俺が問う。

「見る?

里居がスケジュール帳(?)を渡してくる。

俺はそれを見る。

〜〜〜〜〜1031日 蘭の行動〜〜〜〜〜

6:00
 起床 ランニング

相変わらず早起きだ。

汗をかいて、長い髪をうざったそうにする仕草が誘ってるようにしか見えん。

7:00 家事及び身支度

毎日の事ながら、あのバディは悩殺だぜ、グヘヘ


8:05
 柳野訪問 登校

毎日の事ながら、柳野が蘭にベタベタしてる。


8:25
 教室へ

最近、斎藤が蘭に馴れ馴れしい。


8:45
 HR終了

あの担任、蘭に色目使いやがった。


12:40
 昼休み

蘭の弁当はおいしそうだ。


13:36
 5時間目

蘭が眠そう。おい、柳野。蘭の睡眠を邪魔するな。


14:10
 休憩時間

斎藤の自作衣装を蘭が断った。怒った蘭は強くて可愛い。


15:34
 部活中

蘭はやはりツンデレ。可愛いぞ、蘭。



「って、コレ、俺の行動だろうがっ!
何で知ってるんだよ!?

「乙女の力」

……これ、犯罪だと思うんですケド。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「さて、帰るぞ。柳野」

俺は廊下で大の字になって寝ている奴を起こし、下校する。

「私も帰る。」

里居も共に下校。

三人とも、約二十分程度の道のりを自転車ではなく徒歩で帰る。
いつもと同じ日常。

「しかし、蘭がコスプレをしないと盛り上がらなかったな。」

柳野と里居は、こういう人を弄る話題で盛り上がってるだろうに。

「いや、断るから良い。なぜなら蘭はツンデレだから。」

「しかし、蘭もアレだよな。
去年は普通にコスプレしてくれたのにな〜。」

柳野がため息と共に言う。

「きょ、ねん?

その言葉が、何故かひっかかった。
きょねん。そうだ、今は高校生。
去年というと、俺は中学生だ。
そうだ。こいつらと同じ中学で
今みたいに、
違う。
里居は違う。俺も違う。

「っ、蘭!大丈夫!?

里居の顔が近づく。
そうだ。こいつは、里居。
…本当にそうか?

この、人物は、サトイ……?
どちらの、サトイだ?

「あっ、く……ぅぁ。」

黙れ。うるさい。静かにしてくれ。
こっちを汚すな。

「蘭っっ!!!

叫び声に近いような音量で呼ばれ、
ふと、顔を上げる。
交差点だ。
あぁ、青信号でも止まってくれたのか。
悪いことをした。
この信号は赤になるとなかなか変わらない。
いや、あの交差点には信号は無かった。
…ドノ、交差点だ?

「っ。ぁぁっ。」

そして、俺は、不意に、裏側の、白昼夢を、見た。

―――
交差点には、小柄な少年。
俺を引っ張るのは一人の少女。
交差点で、死角からトラックが曲がってくる。
二人とも見えていない。運転手はブレーキを踏む。
間に合わない。少年は少女を突き飛ばす。
トラックとの距離は1mほど。
きっと、間に合わない。少年はその状況でも考える。
そして、意を決したかのようにトラックを見据え、
腕を交差。後ろへ飛ぶ。
急ブレーキするトラック。
衝突するトラックと少年。
後の光景を予測したのか、眼をつぶる運転手。
吹き飛ぶ少年。
少年は大きく吹き飛び―――


「という設定はどう?

「「シリアスな雰囲気になっただろうが!!」」

俺と柳野は里居にツッコんだ後、別れる。
里居も強烈な視線を浴びせた後、走っていってしまった。

「……まったく。
どいつもこいつも、妄想しやがって。
しかし、里居のやつ、どこから監視してるんだろ。」

色々と問題を抱えつつ、
俺は我が家へと入っていった。



―――
オレを見つけるな。
オレに構うな。
オレに関する記憶を持つな。
健全なる世界は健全なる精神に導かれる。
だから、お前はこちらへ入ってくるな。

だから、オレはきっと裏側の住人

 

 

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