5月26日。
―――今年もまた、独りぼっちの誕生日が来る。
―――筈だったのだが、
「「「誕生日おめでとう〜〜〜っ!!」」」
閉店後、三人の重なった声と共にクラッカーの音が聞こえる。
「……っっ!!」
かなりの大音量に平衡感覚を失う。
バカ
「いやさあ、いつもこの娘たちよりも頑張ってくれてるから、
これくらいはしないとね〜」
と、鬼姉妹の母にしてバイト先の店長である美樹さんが、
俺に笑いかけながら綺麗に包装された箱を渡してくる。
誕生日プレゼントなのだろうか、貰うのは何年ぶりだろうか……とは言っても、
16年しか生きていない以上、軽々しくこんな事を言うのはいけない事だな。
と自省しつつ、箱を受けとる。
「……開けても良いですか?」
「もちろん」
ある程度の期待に胸を膨らませつつ箱を開ける。
こ……これはっっ!
「……首輪?」
首輪だった。
「そう、首輪。良かったら今からずっと付けててね。
首輪を付けながら奉仕する蘭ちゃん……やばいよ。
ハァハァ…マジやばいよ。」
「「…お前の方がやばいよ!!」」
鬼姉妹のツッコミが入る。
しかし、この首輪。
ペットショップなんかの物ではなく、ちゃんとした人が使う物だ。
(注)ペットショップの首輪を人に使うと、首がかぶれたりするので止めましょう。
「これなら、別に付けても良いかも……ファッション的にアリだし。」
「「おいっ!!」」
いや、付けないけどね。
「お疲れ様で〜す」
「「また明日〜」」
「グスッ、蘭ちゃんがいなくなる〜」
バイト先を出ると、既に日付が変わろうとしていた。
街灯と月光がある……とはいえ、暗闇の中を歩くのは、20分程度でも恐い。
……別に幽霊を信じてる訳じゃない。
真に恐ろしいのは狂人。
蝕人鬼とも呼ばれる彼等は、人の躯ではなく、精神を蝕む。
ハンター
そして、毎夜、月光の下で粛清者と死闘を繰り広げているのだ。
と、下らない妄想をしている間に家に着く。
いゃ、いないと解ってても、幽霊が恐いんですよ、兄さん。
しかし、いつの間に着いたのだろう……妄想の中で、
俺が敵と戦っていたところまでは周りの景色も視界に入っていたんだが、
それ以降の記憶が無い。
家に入り、荷物を置くと、時刻を確認する。
「まあ、良いや。」
自分で思考を中止して、家に入る。
母は既に寝ている。
俺は風呂に入り、自分のベッドで寝る。
時刻は既に3時を過ぎていた。
―――例えば、夜中になると無意識に行動していたりして、
例えば、三年間の記憶が抜けていたり、
例えば、ある姉と妹を見分けれなかったり、
例えば、一度死んでたりする人物がいれば、或いは俺と同じ悩みを持つのだろうか。