「だから言っただろ!」

 

生徒会も解散間近。

俺はホワイトボードを叩きつけて力説する。

 

「せめて、GKCBはデカい奴にしろ! U-16より小さいU-19ってなんだよ!」

 

そうだそうだと、春ポンが握り拳を振り上げて……いや、ブーイングしてやがる。

 

「小さくてもしっかり競れればいいだろ。あと、インターセプトとフィードな」

「お前……もしかしなくても、プジョルとかカンナバーロとか希少種を持ちだして『身長厨www』とか言うつもりか?」

 

あんなのがいたら苦労しない。

というか、日本に生まれてたら絶対に前線やらされてるからな、あいつらは。

 

「そもそもU-17WCでロングパスに弱いのは分かってただろ。

それが何だよ、ライン下がるわ、競れないわ、パス回せないわ……」

「確かに、アレは酷かった」

 

あれだけやられれば逆に成長できそうだけど。

 

「まあ、兎にも角にもだ」

「おう。そうだな、センパイ」

 

二人、抱き合ってキャイキャイはしゃぐ。

 

「新オーナー決まって良かったな、リバポ!」

「ヴェルディもスポンサー決まって良かったな!」

 

他の生徒会連中が茫然としている中、十分ほど騒いでた。

 

 

 

――200894日――

 

 

 

「つーわけで、生徒会の仕事ももうすぐ終わりだから、頑張ろう」

  

胸中穏やかではなかった時期を終えた俺達だったが、それも終わり。

夏休み中――プールに誰かが忍び込んだとか、深夜徘徊だとか、定番の問題について話し合うと、後は文化祭だけだから頑張ろうと言って、解散。

 

それにしても……さすが、レッドソックスのオーナーは格が違った。

どう順位表見ても、弱い方のプールです。本当にありがとうございました。

とか、絶対にならないようにお願いします。

 

ん? いや、ザックよりもペジェが良かったとか思ってないよ?

ん? いや、インテルは別に心配してないよ、ホントだよ?

ん? いや、ちゃんと日本を応援していたよ、当然だよ。

 

「そうだ、春ポン。あのさ……」

「あ? 何さ?」

 

手招きしてから、次に宮野を呼び寄せて――

 

「多分、次の会長はお前だから。

今の内に宮野から色々と教えてもらっとけ」

 

はてなと、猫だましを食らった顔をした女子が一人。

そのまましばらく凍っていて、一、二、三でようやく解凍。

 

「いやいや、あたしが? ないない、あたしだよ?」

「おう。お前が、だ。」

「あたし、まだ一年だよ?」

「そうだな、だけどそんなの関係ない」

「そもそも、生徒会の役員とかじゃないよ?」

「だから、それでもお前になるって。多分な」

「何で、そうまで言い切れんのさ」

 

この学校の生徒会は、会長が先生と相談して決定する。

そして会長は文化祭のミスコンで決まる……となれば、つまり。

 

「結局は知名度の問題だからな。

お前以外で有名な奴と言えば、成元と斎藤妹くらいだろ?」

 

前者は地味で、後者は性格に多大な問題がある。

つまり、三人の候補の中で誰が一番かと問われれば……

 

「当然、お前になるわけだ」

 

いや、でも、まだ一年だしとモゴモゴ言う春ポン。

こいつは、自身の知名度をそこまで理解していないご様子。

 

「実際、お前の知名度は凄いぞ? 多分、全校生徒が知ってる」

「……あたしはそんな目立った覚えはないんだけど」

「いーや、断言できる。お前の知名度は夏休みの登校日にメチャクチャ上がった」

 

とは言ったものの、そういやこいつ、登校日を休むなんてヤクザなことしてたっけ。

夏風邪をひいてたなんて聞かされて驚いたのが、今日のこと。

メールくれれば、ザマアしに……いやいや、看病しに行ったのにな。

 

「ああ、それって登校日に配ってたアレでしょ?」

 

と、宮野がいい所でのフォロー。

クリアファイルを鞄から取り出し、例のブツを春ポンに見せる。

 

『スポーツ少女、夏川春 16歳』

 

チラシには、体操服姿でスポーツドリンクを飲む春ポン。

 

どアップ。

 

 

滴る汗、透けそうで見えない下着。

 

どアップ。

 

「…………」

「…………」

 

絶句する春ポン。

その表情を窺いながら押し黙る宮野。

 

「タイトルがどう見てもAVです。本当にありがとうございました」

 

ふう、と椅子から腰を上げた所で、首根っこを掴まれて――揺すられる。

 

「おい! あんた、このクソ馬鹿、なにやってんだ!?

「おおおおおおぉ!? ぉれは、な、に、もしてなななぃょ?」

 

――嘘つけ、と生徒会役員一同。

 

「校門前でそのビラ撒いたんだよ」

 

と、役員A

 

「かなり恥ずかしかった」

 

と語ったのは役員B

 

「効果はあったけどね」

 

とは役員C

 

「――蘭に、どうしてもって頼まれたから」

 

そう言ったのは里居……って、お前はいつからそこにいた。

 

 

 

「やっぱりあんたじゃねーか!!

 

待て。俺は、春ポンを大事に思ってるからやったわけだ。

その可愛さを主張しないと、高校生活にやり残したことがあると思ったから。

だからやったんだよ、ツンデレ可愛いな本当に。よしよし。

 

「いや、面白そうだったから、つい」

 

と、弁解した瞬間に室温が三は下がった。

 

「本当に藍原君は……」

 

馬鹿なんだからと苦笑する宮野。

いや、笑ってないで助けろよ。

大体、かなり恥ずかしいこと言ったんだから、春ポン、お前も恥ずかしがれよ。

 

「――言葉と思考が逆になってる」

 

ドジっ子萌えなんて微笑する里居。

だから、笑ってないで助けろよ。

それと、ゴメンな春ポン。こいつが言ってるのは嘘だから……きっと。

 

「ゴメンって。落ちる、おちるから、止めてッ!」

 

ガクリと意識が落ちる瞬間、一仕事終えたぜって顔してた春ポンが印象に残った。

いや、だからお前、先輩にもう少し優しくしろよ、敬えよ、崇めろよ。

 

 

 

――――――。

 

 

 

目覚めた瞬間、他人の顔がすぐ近くにあった。

 

「ぬおぅッ!」

 

椅子に座った状態から、顔を引いて目の前の人物を確認する。

俺の首に腕を回し、膝の上に座り、まるで観察しているかのように、見ているこの女は――

 

「色々、言いたいことはありますが……」

 

やはり、里居美恵。こんな事するのは、こいつしかいないだろう。

とりあえず、某期待大型FWのインタビュー口調から入る。

 

「一つ、近すぎる。二つ、首が痛い。三つ、手を縛られている。

どうにか対処してくれなきゃ困るっていうか、とりあえず離れろ」

 

椅子をギシギシいわせながら非難するも、無言。

何も言わず、こいつは顔を寄せてきて――

 

って、待て、洒落にならん、さすがにそれはどうかと――

 

「…………」

 

いや、むしろチャンスじゃないか。なんて、邪な思考が脳内を駆け巡る。

このまま数秒、ただ動けないからと自分に言い訳するだけで俺はこいつと――

 

「…………」

 

このまま数瞬、ただ動けないからと自分に言い訳するだけで俺はこいつを――

 

里居美恵を、俺は――

 

「――ッッ!」

 

それは、自分で意識した行動ではなかった。

瞬間、歯を食いしばると、寄せてくる顔に頭突きをお見舞いする。

 

「――痛い」

「俺も痛いわ、馬鹿娘。何やってんだよ」

 

痛みに顔を顰める里居。

すかさず、膝の上から落として蹴り飛ばす。

 

「よんなよ変態。お前、俺が寝ている間に何してんだ」

「――痛い」

「正当防衛だ、加減なんて出来るか」

「――過剰防衛」

「そんなことないだろ」

 

たぶん。

 

「――縛って、抱きついて、キスして、着せ替え人形にして、性奴隷にしようとしただけなのに」

 

訂正、絶対に違う。

お前、なに恐ろしいこと考えてやがる。

いや、恐ろしい……のか? うん、恐ろしいことだ。

 

「いくらなんでも、さすがにそれは……」

 

じゃあ、どうしたら良いの? なんてポツリと呟いてくる変態。

どうしたらって、お前。俺を縛りたいんだったら、そうだな……

 

「四つん這いになって、三回回って、ワンって吠えて、足を舐めたら考えてやる」

 

四つん這い。

 

「――ハッハッ」

 

三回、回って。

 

「――ワン」

 

ワンって吠えて。

 

「うあぁぁぁ!?

 

スリッパと靴下を脱がされる。

手は縛られたままで、抵抗できない。

ズボンを脱がされるまで、この間、恐らく三秒とかかってない。

 

「――はぁはぁはぁ」

 

そして、俺の足下には異常なまでに興奮している変態が爆誕していた。

興奮しすぎて、息が荒い。

舌が絡まって、上手く出せないくらいに興奮している様子……

 

「いや、止めとけ、汚いぞ。それに、考えるだけだからな」

 

なんて制止の言葉は絶対に届いてない。

いや、マジで……すんの? お前、ホンットーに変態だぞ? そんなんしたら。

 

椅子ごと後退しようとするが阻止される。

足首を尋常じゃない力で握られる。

はぁはぁと、普段のこいつからは想像できないほどに興奮していて――

 

「あ、鼻血」

 

そのせいか、鼻からタラリと赤い液体。

俺がぽつりと漏らしたその言葉に反応して、青褪めて。

 

「――――――――ひ」

 

急ぎ、両手で鼻を覆う里居。

そのままひーんと泣き喚きながらトイレへ駆け込む。

 

「……た、助かった」

 

ペン立てに置いてあるハサミを口で咥える。

机の上に落とし、後ろを向く。椅子ごと持ち上げ、手に取って縛りを切る。

手を縛っていたタオルが切れて自由になるや、生徒会室を閉めて職員室へ。

 

「失礼します。生徒会室の鍵、返します」

 

おう、と教師の返事。

失礼しましたと職員室を後にして、昇降口へ。

 

――そこで、見知った顔に出くわした。

 

「よう、久しぶり」

「――うん」

 

里居だった。

一緒に靴を履き替え、校外へ。

 

「…………」

「――――――」

 

というか、里居美恵だった。

 

「…………」

「――――――」

 

というか、変態だった。

 

「あー……鼻血、大丈夫か?」

「――うん」

「……そっか」

 

でも、一回出たらしばらくはクセになるから気をつけろよと忠告。

つまり、あんま興奮するんじゃないぞ、馬鹿。と釘を刺した。

 

「――分かった」

「全然分かってないだろうが。近づくな、くっつくな。尻を触るなつねるなつっつくな!」

「――別に、こんなんで興奮しないから」

 

――蘭は自意識過剰。だとか微妙に傷付くことを抜かしやがるこのアマ。

マジで一回シメてやろうか。いや、止めとこう、貞操が危ない。

 

「――蘭があたしを興奮させるなんて、そもそも有り得ない」

 

尻を撫で、ハアハア言いながらそんなこと呟くこの女。

力では勝てず、罵倒はむしろ逆効果。だったらと――

 

「(自主規制)」

「――――――」

 

耳元で思いっきり喘いでやった途端、里居美恵は停止した。

 

「――――――」

 

ポカンと馬鹿みたいに口を開けて、停止してる。

 

「おーい、大丈夫かー?」

 

目の前で手をヒラヒラさせても反応なし。

 

「…………」

  

スカートのポケットをまさぐっても反応なし。

 

「そりゃ」

 

リップクリームを鼻に入れても反応なし。

こいつ、本当に大丈夫なのかと数秒の逡巡。そして――

 

「帰るか」

 

と、至極当然の結論に至る。

変態が隣にいない帰り道。

束の間の平穏を満喫していた。

 

ああそうだ、とりあえずどうでもいい一言。

 

「トーレス、俺は信じていたぞ。二点とも神すぎるだろ……」

 

 

 

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