――2008年5月7日――
――連休明け、約一ヵ月もの練習をしたチームの成熟度を見て、俺は思う。……正直、勝てない気がする。
「まあ、責任取るっつったからには頑張るか」
「そーね」
そして、今は放課後。会議室に集まり、球技大会の抽選が行われる。
「でも、意外だったわ。藍原君が体育委員になるなんて…」
「宮野も、な」
生徒会は生徒会。クラス内での委員とは別物なのだから、俺は体育委員に立候補。
結果、抽選に来たわけだ。
「えー、では説明はしなくても良いか? 各クラスに一チームずつのトーナメントな」
体育教師が方式を説明する。
去年と同じ、三年は準決勝がシード、とまで説明した時――俺は動いた。
「先生――ちょっと良いですか?」
「あ? どうした? 藍原」
「いや、その三年の準決シードですけど……やめません?」
「? じゃあどうすんだよ」
だから、と俺は教師の書いたトーナメント表に、線を加える。
「ここに、教員チームを入れたら良いじゃないですか」
教員も二試合なら大丈夫でしょう? と教師を見て、言い――それが通る。そう確信し、次の案を出した。
――そうして、俺が言った二つの案は反対する一人を押し通し、何とか受理された。
「でさ、何でわざわざ試合数を増やしたの?」
教室に帰る途中、宮野が怪訝な顔で訊ねてきた。
「ウチの連中、勉強しかしてない感じだろ?」
「ん? いや、そうかな?」
「あぁ、そうだ。部活もほとんどが文化系だ」
「それが、試合数と何の関係があるの?」
スタミナが切れるし、むしろ駄目なんじゃないの? なんて、階段を昇りながら訊いてくる。
「野球、サッカー、バスケ、弓道、その他のスポーツと、テストや文化系の発表……違いが分かるか?」
「体を動かす、とかじゃなくて?」
「あぁ、もっと精神的な理由だ」
宮野はしかめっ面で、うーんと唸ってから閃いた。
「もしかして、その……“結果”とか?」
それが何を意味してるのかは理解できるから、俺は――そうだ、と宮野の頭を撫でる。
「大体のスポーツは、行動と結果のタイムラグが無い。……まあ、フィギュアスケートとかは違うけどな?」
「でも、テストなんかは結果発表まで時間がある」
そう――良く出来ました。俺は宮野の頭をポンポンと叩く。
「そういう奴等で、臆病な者はこう思う――まあ、結果はどうでも良いや、俺は頑張った……ってな。
なまじ時間が空くから、結果を受け入れずに目を逸らす。過程が大事……その考えは悪くはないが、逃げの思考にもなるって事さ」
「んー、そっかな? で、試合の経験を積ませようってわけ?」
ああ、その通りだよ。俺たちは教室の扉をガラリと開ける。
「例えば、エラーしたら相手に点が入る。それは目を逸らすことが無い、リアルタイムの結果だ。
そういう事を、分からせないとな……ってとこで、第二の案が役立つわけさ」
俺が提案した二つ目の意見は――
「お前ら、喜べ!! 一回戦は一年坊主とだ!」
そう、一回戦目から、学年関係無しのトーナメントにする事だった。
それ故に、体育会系でもないチームでも楽に勝てる、なんて可能性のある試合が生まれる。
「全く、一年に負けたらどうするのよ」
弱気な真面目ちゃんが何かを言ったが、しかしそんなものは忘却する。恐らく、一年相手ならば問題無いだろう――何故なら、
「この“元A判定”、藍原蘭さまが投げるんだ。里居美恵以外に打たれるわけ無いだろーが」
そして、俺がソフトボールの難しさを知るのは、この一週間後である。