――200857日――

 

 

 

――連休明け、約一ヵ月もの練習をしたチームの成熟度を見て、俺は思う。……正直、勝てない気がする。

 

「まあ、責任取るっつったからには頑張るか」

「そーね」

 

そして、今は放課後。会議室に集まり、球技大会の抽選が行われる。

 

「でも、意外だったわ。藍原君が体育委員になるなんて…」

「宮野も、な」

 

生徒会は生徒会。クラス内での委員とは別物なのだから、俺は体育委員に立候補。

結果、抽選に来たわけだ。

 

「えー、では説明はしなくても良いか? 各クラスに一チームずつのトーナメントな」

 

体育教師が方式を説明する。

去年と同じ、三年は準決勝がシード、とまで説明した時――俺は動いた。

 

「先生――ちょっと良いですか?

「あ? どうした? 藍原」

「いや、その三年の準決シードですけど……やめません?

? じゃあどうすんだよ」

 

だから、と俺は教師の書いたトーナメント表に、線を加える。

 

「ここに、教員チームを入れたら良いじゃないですか」

 

教員も二試合なら大丈夫でしょう? と教師を見て、言い――それが通る。そう確信し、次の案を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そうして、俺が言った二つの案は反対する一人を押し通し、何とか受理された。

 

「でさ、何でわざわざ試合数を増やしたの?

 

教室に帰る途中、宮野が怪訝な顔で訊ねてきた。

 

「ウチの連中、勉強しかしてない感じだろ?

「ん? いや、そうかな?

「あぁ、そうだ。部活もほとんどが文化系だ」

「それが、試合数と何の関係があるの?

 

スタミナが切れるし、むしろ駄目なんじゃないの? なんて、階段を昇りながら訊いてくる。

 

「野球、サッカー、バスケ、弓道、その他のスポーツと、テストや文化系の発表……違いが分かるか?

「体を動かす、とかじゃなくて?

「あぁ、もっと精神的な理由だ」

 

宮野はしかめっ面で、うーんと唸ってから閃いた。

 

「もしかして、その……“結果”とか?

 

それが何を意味してるのかは理解できるから、俺は――そうだ、と宮野の頭を撫でる。

 

「大体のスポーツは、行動と結果のタイムラグが無い。……まあ、フィギュアスケートとかは違うけどな?

「でも、テストなんかは結果発表まで時間がある」

 

そう――良く出来ました。俺は宮野の頭をポンポンと叩く。

 

「そういう奴等で、臆病な者はこう思う――まあ、結果はどうでも良いや、俺は頑張った……ってな。

なまじ時間が空くから、結果を受け入れずに目を逸らす。過程が大事……その考えは悪くはないが、逃げの思考にもなるって事さ」

「んー、そっかな? で、試合の経験を積ませようってわけ?

 

ああ、その通りだよ。俺たちは教室の扉をガラリと開ける。

 

「例えば、エラーしたら相手に点が入る。それは目を逸らすことが無い、リアルタイムの結果だ。

そういう事を、分からせないとな……ってとこで、第二の案が役立つわけさ」

 

俺が提案した二つ目の意見は――

 

「お前ら、喜べ!! 一回戦は一年坊主とだ!

 

そう、一回戦目から、学年関係無しのトーナメントにする事だった。

それ故に、体育会系でもないチームでも楽に勝てる、なんて可能性のある試合が生まれる。

 

「全く、一年に負けたらどうするのよ」

 

弱気な真面目ちゃんが何かを言ったが、しかしそんなものは忘却する。恐らく、一年相手ならば問題無いだろう――何故なら、

 

「この“元A判定”、藍原蘭さまが投げるんだ。里居美恵以外に打たれるわけ無いだろーが」

 

そして、俺がソフトボールの難しさを知るのは、この一週間後である。

 

 

Back  Chapter TOP  Next

 

 

inserted by FC2 system