20073

 

 

 

――――帰り道、百メートルほど前方に宮野結衣を見つけた。

彼女の人柄は一言でいえば生真面目、さらに言うなら実直。

まあ、そこまで親しくもない……挨拶をする程度の間柄だ。

 

そう、この時はまだ、ただのクラスメート。

俺たちが生徒会に入るのは、もう少し先の事。

 

「あれ? 藍原君」

 

「やっほー、どうしたんだ?

 

もう春休みだってのに……何で制服何だよ、こいつ。

 

「あー、私? 春期講習受けてんのよ」

 

「そういや、そんなのもあったなー」

 

ウチの高校は、そこまで偏差値が高くない。

……というか、ぶっちゃけ馬鹿ばっかしだ。

 

「もしかして、受験すんの?

 

「もしかしなくても、そう。黎明大学を目指すつもりよ。

って、藍原君はどうなの? 頭、良いでしょ?

 

嫌味かよ、チクショー。と頭を抱える。

 

「俺、宮野にテストの点で勝ったことないっつーに」

 

「……まあ、どっか抜けてるしね。」

 

「そうゆーこった。まあ、俺は勉強せずに入れるトコにするさ」

 

「…………」

 

あ、今コイツ凄い怒ってる。

分かる、分かっちゃうよ、そんなに頬をピクピクさせたら……

 

「何でそんなに適当なんじゃ、自分は――――!!!!

 

この場合の“自分”ってのは俺のことだ。

 

「うあ――――!?

 

「その腐った根性、叩き直したるで、ほんま!!

 

「いや……関西弁、自重しろよ!?

 

「うっさいわ、このアホ――――!!

 

ギャース、と吠える宮野結衣。

あぁ、駄目だよコイツ。一度燃えたら、なっかなか消えないんだよ。

 

「大体、講習受けるのが七人ってなんじゃ――!!

 

あ、七人もいるんだ。

春休みなのに勉強とはご苦労ご苦労……だから勝手にやってて欲しい。

 

「ぶっちゃけ、俺にはカンケーないし」

 

「何でそんな無関心やねん!! ほんまにこの野郎、可愛いわ、コンチクショ――――!!

 

「……いや、それは褒めてんのか?

 

「――うん! 私にもよく分からへん!!

 

何だ、そりゃ。というか、いつの間にか注目を浴びている俺たち。

イタイ、痛い……通行人の視線が痛い。

 

「とりあえず、何か食いに行くか?

 

時間は十二時過ぎ。腹の虫がそろそろ喚きだすころだ。

――――食っても、吐くだけだけど。

 

「あー、じゃあマクドに行く?

 

宮野も、少し落ち着きを取り戻した様子。

 

「おー、マクド行くか。って、マクドって東京で通じねーの知ってるか?

 

えーじゃあ、何て言うのさ。何て不毛な会話をしつつ駅前へ向かった。

 

 

 

 

 

――――そして、堕ちた俺を蔑むように見下ろす瞳があった。

、、、、  、、、、、、、、、 

「やっぱり、こうなると思ってた。」

 

「ック、ッヅ――――!!

 

先の言葉を反芻する。

 

 

 

――――お前みたいな羽虫が、いくら昇っても――――

 

 

 

「彼には勝てない、勝てるわけが無かった。」

 

「――――」

 

畜生、なんて毒づく暇もなく――俺の意識は消えていった。

 

 

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