「グローリアース、ユールリーザ、ウェーイ♪
トゥー、フリー、ザ、ワールド、フローム、ジーズ、チェイーン♪
グロ〜〜リア〜〜ス、ユアストーリー、ナーウ、ビ〜〜ギ〜〜ン♪ ファイアッ!!」
「……うっさい、クソ兄」
「………」
時刻は朝の七時半。
蘭から借りた曲を歌いながらの登校中、
隣を歩く妹に、思いっきり膝を蹴られる。
「ほら、お前も歌え」
「うっさい、あんな曲のどこが良いんだ?」
良いから、ほら。と曲をサビに合わすと同時に、イヤホンを片耳に装着させ――
「ウイ〜〜グス、オブ、リア〜〜リティ〜〜〜♪」
「「テイクミー、ハ〜〜〜〜イヤ〜アン、ハ〜〜〜イヤ〜〜〜♪」」
……ノリノリじゃねえか。
「コ、コホン。この曲だけは評価しても良いな、うん」
そうか、と次の曲のサビに合わせる。
「クロ〜〜リン、エンジェル、アンド、ディーーモンズ、ディスガ〜〜〜〜〜ィズ♪」
「「ザ、トゥル〜〜ス、ユーー、ドンノ〜〜〜〜ゥ♪」」
…………ノリノリだろ、お前。
「ゴ、ゴホン。まあこれも良い曲だな」
だろ? と電車に乗り込みながら件のバンドについて、語る。
今日は二月十四日。いわゆる、バレンタインデーだ。
「しかし、他の奴は誰も受けないのか?」
「あぁ、町が町だからな。普通の人間は行かない」
「………」
妹――――斎藤佳奈美は美少女に分類される人物である。
しかし、それと同時に性格が、その……少々変わっているのだ。
そんなもんだから、浮ついた話題の一つもない妹を、少し心配してしまう。
……まあ、そんな話題は俺にもありませんけどね!?
「ほう、駅から歩いて八分か。
中々の立地じゃないか、なあ?」
だろ? と校門をくぐりつつ言う。
今日は、公立高校の願書受付らしい。
なら折角だし、兄妹揃って行こう……となった次第だ。
しかし――――
「で? 会議室はどこなんだ?」
「………俺も知らん」
そうか、と落胆交じりに嘆息し……妹は一言。
「お前、馬鹿だろ」
ぐぐぐ、と喉の奥まで言葉が出てくるが、引っ張り出せない。
……どれも、それを否定するほどの力は無いからだ。
まあ、そんなこんなで。兄妹そろって上履きに履き替える。
会議室の場所は適当な教員に訊けば良い、と結論づけ――
妹から目を放そうとした時、ちょうど良い奴が生徒玄関に現れた。
「ユー、ティア〜〜、イントゥ、ピ〜〜シィ〜〜ズ、マイハ〜〜〜〜ッ!!」
「Before You Leave With No Repentance♪♪」
「「アイクライ、トゥ、ユ〜〜♪
マイ、ティアー、タン、イントゥ、ブラ〜〜〜〜ッド♪」」
歌っているのは藍原蘭と里居美恵。
………里居が、やけに上手い。なんせ、歌詞が英語表記の上に♪マーク二つだ。
そして、蘭は超絶音痴だ。なんせ、歌詞に♪マークが付かない。
「おー、蘭。ちょうど良かった。会議室ってどこか分かるか?」
オッス、なんて挨拶をしながら訊ねてみる。
「会議室は、そこの角を右に曲がって真っ直ぐ行けば着くぞ。
……でも、どうした? 会議室になんかあったっけ?」
「妹が今年、ここを受けるんだけどよ?
願書受付の場所が会議室なんだよ。」
ほら、佳奈美。挨拶しとけ、なんて妹を蘭たちの視界に入れる。
と、そこで佳奈美の異変に気付いた。
「………………」
こいつが――――緊張してる。
もう、甲子園に初めて出た高校生のようにガチガチだ。
「あ、斎藤佳奈美です」
「どーも、藍原蘭です。
ほら、里居。お前も挨拶しとけ。後輩だぞ?」
「――――ん、里居美恵です」
雰囲気が微妙に寒かったので、
これ以上の戦闘は危険と思い、妹に退却を命じる。
「それじゃあ、佳奈美。会議室の場所は分かったな?」
「……あ、あぁ。大丈夫だ」
バイバイ、なんて手を振る蘭を里居が捕らえ――
俺も、健太が来るのを待たずに教室へと行くことにした。
――――そして、その日の夕食。
浮ついた話が一つとして無い、佳奈美から爆弾発言が飛び出た。
「――――惚れた」
「………は?」
「あの、先輩。可愛すぎるだろJK(常識的に考えて)」
「………」
俺は、たっぷり一拍の間をおいて宣言した。
「蘭は俺の嫁だから」
「………JK(冗談は顔だけにしてろ)」
「ウッセ――――!!」
「うざい、それより勉強だ、勉強!! クソ兄でも受かったくらいだ。
私ならトップで合格できるはずだ」
――――そんな佳奈美が、蘭と話すのはこれより半年以上も先の事だった。