「みなさん、御入学おめでとうございます。
我が校は設立40周年という節目をむかえ、」

などと、聞きたくも無い話を延々と聞かされる行事は、

さすがにこれまでの人生(15年と4ヶ月)

耐性が付いても良いくらいに聞かされてきた。

しかし、何回経験しても全く楽にならない。
これは、おかしい。慣れれば痛くはならない筈なのに……うん。

校長の話は続く。
「みなさんの胸は、これから起こる出来事への不安と期待で一杯でしょう。」

……ふむ、差し障り無いが、良い事を言う。
もちろん、アタシとて不安と期待が胸一杯だ。

「で、あるから。
今の時代において、君達に託された課題は多いのですが、その分―――

しかし、その話は脱線し、政治や経済の話に移り変わる。

「私が小さい頃は、この辺りにも田畑があったのですが、

近年における都市開発で現在は―――

…はあ、ついに、昔話まできたか。
はッ、近年の都市開発?馬鹿を言わないでほしい。

つまり、“アレ”は禁句なのだ。あの地獄絵図は、禁句なのだ。

この校長も、自宅はここにあるという訳では無いのだろう。

そうでなければ、この町について―――。

この町の過去について―――それが何年前であろうと。

決して、口には出さない。




「おい、どうしたんだよ。
二日酔いみたいになってるぞ?」

確かに、遠目から見ても、蘭は衰弱していた。

アタシが声をかけるのは不自然だろう…今は、まだ。
とあれば、柳野が問うのは道理だ。

しかし、あの蘭が二日酔いになるとでも思ってるんだろうか。
……いや、なりそうだ。いつか飲ませてやろう。

「ああ、省略機能が壊れててな……」

成程。あまり心配させないでほしい。

蘭は、校長の話で疲弊しているだけなのか。

うん、分からないでも無い。

?……まあ、お前がそんな奴なんて事は知ってるけど」

…どんな奴だと思ってるんだよ!?

柳野、お前。アタシの蘭に無礼な事を言うな。
しかし、高校一年になり、蘭と同じクラスになった事は幸運だろう。
……尤も、アタシは何もできない。今は、まだ。


「で、一緒の部活入らないか?
今週はずっと部活を見て回ってさ―――

しかし、同じ中学の奴が全員同じクラスになったのは作為的なモノを感じる。
まあ、同じ中学で受けたのはアタシを含め三人だけなんだが……
教師も“厄介な奴”を固めようとしたのだろうか。


「話を聞け!

「あ、うぅん?

蘭は、柳野の言葉など上の空。

少し、思考に耽っているようだ。

「えっと…何を言ってたんだ?

「ああ、とりあえず今日から学校内の部活を見て回ってさ、

良いのがあれば一緒に入ろうぜ。ほら、やっぱ高校生活は部活だろ?

そう云えば中学の時、アタシ達は何の部活もしていなかったな。

……どこか、適当なのに入ってみるのも良いかもしれない。

逡巡の後、蘭はその提案を拒否する。

どうやら、蘭はバイトをしようと思っているらしい。
両方出来るほどに器用ないからな、と蘭は柳野に語る。

―――蘭は気付いているだろうか。多分、その趣向は蘭のものではない。

“あの蘭”は言った『診察料とかどうしようか。』

アタシが出すと言ったが、彼は拒否した。

フェミニストなとこは、彼も変わらないらしい。

尤も、診察したところでどうにかなる身体では無いのだが―――。

 

アタシは知らず、拳を強く握っていた。

―――拙い。そう思った時にはもう遅い。

 

 

 

蘭の目は、人並み外れている。

認識視野・瞬間視野・把握能力。

アタシの握った拳の強さを、蘭自身も知らずに把握するだろう。

 

 

 

―――ちらり、と。
斜め前の席に座っている人を見た。―――



「―――ッ。」

 

今のは、危なかった。

蘭の視線につられて自分も振り返るところだった。

現在の座席は自由席。蘭はアタシの斜め後ろ。

こんな事なら、もっと離れた所のほうが良かった。

 

 


そうこうしている内にHRが始まり、終わる。
席替えや、委員会は明日のHRに決めるらしい。

アタシは、ここでとうとう心に負けてしまう。

ちらり、と。斜め後ろに座る蘭を見る。

―――蘭は気付かない。

窓の外をぼんやりと見つめている。

バイト先でも考えているのだろうか……。


HR終了後、蘭はしつこくメルアドを訊いてくる男子を躱しつつ、

校舎内を駆け抜けていた。

―――そうか、あの程度の運動ならば支障はないだろう。

とは云っても、今まで以上に悪化する事もなさそうだが……。

 

「―――ふう。」

 

アタシは溜息をついて階段を降りる。

―――途中。

 

「「ねえねえ、美少女さん〜。」」

 

唐突に、行く手を遮られた。

 

「―――アタシ?

 

惚けた振りをしつつも、現状を把握する。

眼前の二人―――多分、双子。

アタシと姉さんのように、瓜二つ。

どっちがどっちか、全く分からない。

 

「「そうそう〜。でね、部活とか……興味ある?」」

 

「―――部活?

 

そう、部活。とステレオ姉妹は返答する。

この姉妹、思考・言動まで瓜二つではないか。

 

「―――何の部活、ですか?

 

校章の色から見ると、2年生だろう。

アタシは、少しこの姉妹に興味が湧いてきた。

何故、この姉妹は―――こんなに仲が良いのだろう?

思考が似ている―――つまり、好きな人も。

なら、仲違いがあってもおかしくない。

 

「「帰宅部(はぁと)だよ。」」

 

「―――帰宅部?

 

「「ノンノン、ノノちゃん。帰宅部(はぁと)だよ。」」

 

(はぁと)と云う部分が大切なのだよ、と嘯く二人。

それに、少し遅れて―――

 

「あ、その。出来れば、で、良いんだよ?

ほら、だべってるだけの部活だから。」

 

もう一人の人物―――む、中々の美人さん。

おまけにこの人―――

 

「「何を言うか、この巨乳」」

 

「なぁッ―――!?

 

そこまでは無いと思うが……うん、アタシよりはある。

少し、分けて欲しいぐらいだ。

まあ、何にせよ。この人達―――

 

「―――分かりました。」

 

―――中々どうして、面白そうな人達ではないか。

 

 

 

そして、アタシはその日のうちに入部した事を姉に告げた。

 

 

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