―――――球技大会。

 

 

我が校においての三大大会の一つ。

種目は男女混合でのソフトボール。

4イニングで終了し、女子は1チーム4人以上の出場が義務付けられている。

野球部の出場は不可だが、女子ソフトボール部の出場は認められている。

 

故に、女子のソフトボール部の人数が勝敗の鍵となる。

……その点で、我がクラス―――二年一組は不利だ。

 

何せ、ソフト部が0人なのだから。

しかし―――――

 

―――――っ。」

 

 

 

ズドン、という音が試合終了を告げる。

―――――何事にも例外が存在するものだ。

 

二年一組のエース―――里居 美恵―――が完全に一年四組を抑えた。

 

里居は、ここまでの三試合、12イニングで被安打3という怪物的能力を発揮している。

無論、被安打3は今の試合で斉藤(妹)の2安打と成元に打たれた内野安打のみ。

110キロ後半のストレートで三振の山を築いていた。

 

 

 

これで、決勝進出。

 

 

 

次は、三年三組との決勝戦。

・・・・・・・・       

……とりあえずこれでもう一回一年からやり直さなくても良くなったわけだ。

さて、俺が一年生をやり直す可能性が出た出来事について、話そうか。

 

そう、あれは数日前のHR

 

 

 

「あ〜、球技大会のメンバーを発表する。」

 

学校行事では生徒の自主性に任せることが多い。

しかし、何故か、この球技大会では担任自らが徹夜でメンバーを考えてきたという。

その、担任が黒板にメンバー表を書いていく。

 

 

 

1番 投手 里居

 

2番 捕手 柳野

 

3番 一塁 斉藤

 

4番 二塁 クラスメイトA

 

5番 遊撃 クラスメイトB

 

6番 三塁 クラスメイトC

 

7番 右翼 クラスメイトD

 

8番 中堅 クラスメイトE

 

9番 左翼 クラスメイトF

 

 

 

少し、自分が入ってない事に驚く。

こういう学校行事では嫌でも出場させられていたが、

担任は俺のやる気のなさを理解してくれたのか。

ついでに言うと、外野は全て女子という、なんとも不安な守備陣だ。

 

 

 

「お前ら、勝たないと藍原が移動するんだから、死力を尽くせよ!

 

応、と声を合わせる2年1組一同。

 

 

 

―――――ちょっと待て!!何だよ、移動するって!?

 

「ん?何だ、藍原。さっき渡しただろ?

 

と、担任は球技大会の予定表を見せてくる。

1学年4クラスだから、合計で12チームでのトーナメント。

準決勝までの2試合は同学年との試合。

但し、3年は準決勝はシード。

優勝チームと教員チームで試合をして、終了という予定だ。

優勝チーム、MVPには豪華特典があるらしい。

 

―――――普通だ。豪華特典は有り得ないが、これのどこに俺が関係してるんだろう?

 

 

 

「あぁ。この豪華特典が蘭だぞ。

優勝チームのクラスに蘭が移動して、MVPと付き合うって話だ。」

 

柳野が振り返りながら言う。

 

「………。」

 

―――――。」

 

―――――少し、体育委員をシメてくる。」

 

「マテマテマテマテ!!蘭、早まるなって!

 

止めるな、友よ。

俺の人権を無視するような事を許容できるわけが無い―――――!

 

 

 

 

 

「このクラスの体育委員………里居だぞ。」

 

――――――。」

 

許容した。

別に、里居に刃向うのが怖いのでは無い…いや、怖いんだが。

里居は、黙々とゴムマリを握りつぶしている。

 

――――――。」

 

―――――土門か、アイツは。

 

 

 

 

 

――――――鬼火―――――

 

 

 

 

 

という訳で、俺は役員席で座りつつ、ボーっと試合を眺めているわけだ。

試合は決勝戦の1回表。

先攻は33組。人害姉妹と、田崎先輩、さらにソフト部のエースを擁する、

総合力では最強のチーム。

 

後攻は21組。―――里居、柳野、斉藤の3人だけで勝ち上がってる、

ある意味凄いチーム……というより、里居のワンマンチーム。

 

 

 

1回表1番はセカンドの高崎 玖美(人害姉)。

里居の1球目―――120キロを超える、剛速球を引っ張る。

――――レフト線への大ファウル。

成程、人害との対決では、女子ソフトのトップクラス程度では抑えきれないということか。

 

2球目―――里居が投じたのは、チェンジアップ。

 

―――――ぅぁ。」

 

人害(姉)は空振り、一回転する。

そして、間をおかずに3球目―――

 

―――ズドン、という音。それに次いでぐわぁ、というキャッチャーの悲鳴。

 

そして沈黙するギャラリー達。

――――――ソフトボールでの120キロは体感速度、150キロらしい。

ならば、ソフトボールで150キロならば、

その体感速度は如何ほどのものだろうか―――――

 

その後も、里居は人害(妹)、田崎先輩を三振に抑え、3アウト。

 

 

 

そして、1回裏の攻撃。

 

ノーアウトから里居が敬遠され、後続の打者は尽く凡退。

ゲッツーとピーゴロ……。全くタイミングがあっていなかった。

 

相手投手は、ソフト部のエース。絶妙なコントロールと多彩な変化球。

そして、二遊間の人害コンビも加わり、打たせて取るピッチング。

 

 

 

 

 

勝負は、1点を争う試合となった。

 

 

 

――――――――――――――



 

そして、最終回、4回裏。

先頭の里居は、またも敬遠され、ノーアウトランナー1塁。

 

 

 

バッターは柳野。

その初球―――――内角へのストレート。

 

―――げっ」

 

差し込まれ、三塁ゴロ。

サードが二塁に送球し―――――

       ・・・・・・・・

―――――ようとしたその時、既に里居は二塁ベースを蹴り、三塁に向かっていた。

 

――――――うぉっ!

 

驚愕する、名も無き三塁手。

送球を無理に止めたからか、手からボールがすっぽ抜け、どこにも投げられない。

 

 

 

ノーアウト、ランナー1塁3塁。

 

 

 

バッターは、斉藤。

初球―――膝元に食い込んでくるシュートに手が出ず、見送り。1ストライク。

 

2球目―――今度は外角のストレート。

だが―――少しコースが甘い。

斉藤は地面を強く踏み込み、ライトへ流し打つ。

 

カキン、という快音を残し、打球はライト線へ―――――

 

「「やばっ」」

 

人害姉妹が焦燥し、キャッチャーの田崎先輩はじっ、と打球の行方を見る。

 

 

 

―――――ラインドライブがかかった、その打球は惜しくも、ファウル。

溜め息を洩らす、観客。

ふぅ、と安堵する、観客。

 

投手は、それを意にも介さず集中し―――――3球目。

 

「ぬぅ――――――!

 

内角高目のストレート。ボール球だが、斉藤のバットは止まらず―――

―――そのまま、なんとか掠り、ファウルチップ。打球は審判の横へ流れる。

 

4球目―――――外角へのボール球。

見逃して2ストライク1ボール。

 

 

5球目―――――内角、膝元へのシュート。

これも、なんとか掠る。ボールは斉藤の足に当たり、ファウル。

 

6球目―――――やや低めのドロップ。

見逃し―――――――

 

 

 

――――――ボール。2-2

 

 

 

ここで、両者。一息つく。

 

 

 

そして、両者構え―――

 

7球目―――――斉藤は外角に山を張り、足を踏み込む。

―――――外角。

 

――――斉藤の読み通り、外角のボール。

スイングする。

三塁ランナーは里居だ。セカンドゴロでも、ホームインだろう。

 

――――――絶対の勝利を確信し、スイングしたバットは、

しかし、ボールに掠らず―――――三振。

ここにきて、斉藤に一度も投げてないカーブを,

ここ以外に無いというコースに決めてきたのか。

 

ボールは田崎先輩のミットに収まり、1アウト。

 

 

 

「ふう」と息を吐く投手。

 

 

 

と、突然。疾風のように、里居が駆けた―――――!

 

 

 

―――――?

 

 

 

田崎先輩から帰ってきたボールをすぐさま返球するが、時すでに遅し。

―――――里居のホームスチールでサヨナラ。まさしく、ワンマンチームな我がクラスだった。

 

 

 

 

 

「「で、クラスが変わらなかったから面白くな〜い」」

 

「黙れ、人害。とっとと働け。」

 

「「ぶぅ〜。つまんなぁ〜い。」」

 

「はぃはぃ。玖美も美玖もとっととコレを持って行く!!4卓と2卓だからね!

 

「「は〜い。」」

 

「蘭ちゃんは1卓のオーダー聞いてきてくれる?

 

「はい。」

 

まぁ、そういう訳で。俺はクラス移動が無く―――

―――MVPは里居になり、

まぁ俺はあんな人権なんてクソクラエみたいなモノに従うはずもなく。

いつもの日常を続けている。

 

「オーダーはお決まりに……って、お前。」

 

ガサ、と顔を隠すように広げていた新聞を閉じる、その人物。

 

「蘭……ご奉仕してくれるの?

 

 

 

…里居だった。

 

ジャック・ザ・マスター  

「お前、なんでこんな所に来てんだよ。」

 

「私の勝手。それより、蘭。制服、何で男子の服なの?

 

―――――男子だからだろうが!!

 

正体不明の店  

そんな、バイト先―――ジャック・ザ・マスターでの出来事はもう少し先。

 

6月―――――梅雨時の物語。

 

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