――――――春眠、暁を覚えず。

ふむ、確かに眠い。

 

 

 

始まったばかりの授業は、集中する必要もなく、

かといって始まったばかりじゃなかったら集中するのか?とも思ったりする。

 

 

 

……眠い。

 

 

 

教師の言葉がさらに俺を睡眠世界へと送り出していく。

既に、俺の頭はこくり、こくりと規則正しく揺れ続けている。

 

 

 

授業が終わるまで、あと30分以上……。

俺はいっそのこと睡眠世界へと旅立とうとして――――

 

 

 

「その隙、貰ったぁぁぁっーー!!

 

 

 

―――――突然の侵入者のせいで現実へと引き戻された。

 

 

 

俺の前方の席へと放たれるBB弾。

 

 

――――っ、甘いわ。この愚妹っっ!!

 

しかし、それを首の動きだけで躱すと、斉藤は制服の内側からエアーガンを取り出す。

 

 

 

「ちっ、そんな簡単に避けるなよ。この変態っ!!

 

 

 

そういう、斉藤の妹もBB弾を躱すあたり、常人じゃないと思うのだが…。

 

 

 

「また、斉藤か……。ほら、さっさと1年の教室に戻れ。」

 

教師は教師で、既にもう慣れっこなのか。

妹に注意をし、兄の方にも目線だけで

(てめぇ、妹をちゃんと躾けしとけよ。毎度、授業を邪魔しに来やがって!!

という剣呑なメッセージを送る。

 

「……ちっ。」

 

妹は、そのまま斉藤を一度見て姿を消した。

 

 

 

「先生、あざっす!これからは俺の方から攻めに行きます!!

 

斉藤は見事なまでに誤解していたっ!!

そして、自らも教室を出ていく。

 

 

「ちょっと、待て。斉藤――――!!

俺の軍事ネタを聞いてくれるのはお前だけしかいないんだ―――――!!!

 

 

……教師は教師で、斉藤を追って行った。

………なんだ、そりゃ。

 

 

クラスメイトを見ると、既に友人と話し込んでいる者、

席を立つ者……教室を出る者までいる。

 

「…はぁ。なんか、これって違うんじゃね?

 

前の席の友人が、俺に話しかけてくる。

 

「違うって、何が?

 

「んー、なんかさ。」

 

「あぁ。」

 

珍しく友人―――――柳野 健太が、真面目な顔で言う。

 

「しょうがないことなんだが、俺は嫌いだな―――――こういう時だけ、楽しようとする奴。」

 

「誠実なんだな……意外と。」

 

つまり、健太はこう言いたいのだ―――――

 

「他人の顔色を意識してんじゃねぇ。

自分の行動をそうやって、他人に依存してるみてぇなのは…嫌いだな。」

 

「…そうか?仕方のないことだろ。

そうやって生きるように、みんなが学んできたんだ。」

 

 

 

―――――そう、他人の顔色を窺いながら生きる事に慣れ過ぎている。

故に、すぐに壊れる……。それが、現代の若者だ。

 

 

 

(しかしな……健太。)

 

 

 

ぱす、と後頭部に軽い衝撃――――が、来る前に俺は後ろから飛来してくるそれを掴んだ。

――――――紙飛行機だ。恐らく、里居が飛ばしてきたのだろう。

里居を見ると、中を見るように、とジェスチャーをしてくる。

 

(……これから、ホテル行かない?お金はアタシが持つ。

何なら、部室でも……きゃ、蘭は意外に大胆。)

 

「でも、マイペース過ぎるのも困りものだろ?

 

全く、あいつは何を書いてるんだか…それ以前に紙飛行機を上手く俺まで飛ばせたな…。

 

「…確かにな。でも、お前。よく後ろから飛んで来るやつを掴めたな。

俺は面白いから、黙って見てたんだが。アレか?霊感とか、そんなんか?

 

「違うよ……ちゃんと、後ろから来るって確信があった…種もある。

種明かしはしないけどな。」

 

それに、お前、俺が言っても、信じそうにないし。

 

「うわっ、コイツ。やっぱアレか?視界が360°なのか?

 

…やっぱって何だよ?俺を人外扱いするなよ、お前。

どうせ、信じないだろ?アレはただ―――――――

 

 

 

「どうでも良いだろ。それより、先生がいないからって、俺に話しかけるなよ。

そういうの、嫌いなんだろ?

 

「……は?俺は、たとえ先生がいても、お前と話してるね。」

 

当然だろ?と健太が言う。…確かに。

こいつは、授業中でも、お構いなしに喋ってくるわ、

寝るわ、弁当食うわ、メールするわ、やりたい放題だ。

 

「まぁな。んじゃ、例えば俺は今日、

授業が終わらなくても、部室に行ってた…って言ったら信じるか?

 

―――――あぁ。たまには、里居を置いて行くか。」

 

 

 

そして、俺たちは教室を抜け出して、部室に行った………しかしな、健太。

 

 

 

「里居は、もう既に部室にいる…と思うぞ?

 

「はぃ?そういや、アイツいね〜な。」

 

「だろ?さっき、アイツが鞄持って席を立つのが見えたんだよ。」

 

「そっかよ。じゃぁ、俺たちも行くか……って待て待て。」

 

「…何だよ?

 

俺はうざったそうに言う。そういや、口を滑らせてしまったか……別にどうでも良いが。

 

「何で、お前の席から里居の席が分かるんだよ。」

 

里居の席は一番後ろ。俺はその二つ前の列

―――つまり、真ん中だ。そして、俺の前が健太。

つまり、俺が健太と話している時に、里居の席が分かる筈もなく

―――また、里居は勿論、教室を出る時も後ろのドアから出る訳で、

分かる筈もない―――のだが……

 

 

 

「里居が廊下を通ってるのを見たんだよ。

で、さっきのにかこつけて適当に嘘ついたんだよ。」

 

……だって、お前。俺を見てるってことは、お前は後ろを見ていたんだろ?

里居が席を立ったのには、気付いていなかったみたいだけどな。

 

「…そんなオチなわけね。まぁ、とっとと行くか。」

 

「あぁ。」

 

 

 

―――――どうせ信じないだろ?紙飛行機も、里居も、

・・・・・・・・・・・                     

お前の眼球に映っているのを見た…なんて、自分でも訳分かんねぇよ。

 

 

 

 

 

―――――マゼッパ―――――

 

 

 

 

 

「ってわけで、蘭センパイ。アタシと付き合いましょうか。」

 

「………。」

 

「………。」

 

「……。」

 

 

 

部室の沈黙を破ったのは、やはり、というか里居だった。

 

「蘭は、私と結婚してるの。」

 

「いや、それは無い。」

 

というか、現在進行形!?

 

「おぃ、蘭。また妙なのに好かれたな…お前。」

 

「誰にも好かれてない、お前には言われたくねぇ。」

 

 

 

俺は、健太にそう返すのが精一杯だった。

なぜなら――――――

 

 

 

「センパイは、ワタシと赤い糸で繋がってるんですよーーーだ!!

 

「…有り得ないね、蘭はすでに私の嫁なんだから。」

 

「「おぉ〜〜、激しい視線。見つめあう美少女。

その狙いは―――――めちゃくちゃプリチーな美少女だーーーーー!

これは、目が離せない!!」」

 

最後の美少女って、俺の事なんだろうか……やはり。

 

「…まぁ、この一年間、耐えきればあの姉妹は卒業だから

……な?強く生きようぜ、蘭。」

 

「……お前もな。」

 

 

 

俺は、健太にそう返すのが精一杯だった。

なぜなら―――目の前の素晴らしい日常に、浸っていたかったから。

 

 

 

そうして、帰宅部(はぁと)に新入部員が入ってきた。

 

 

 なりもとさちよ                                       

成元幸代―――人害姉妹とタメを張れそうなほどのハイテンションガールだった。

 

 

 

 

 

――――――これが、俺。藍原蘭と成元幸代の再会だった。

 

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