鞄、OK。
ハンカチ、OK。
ティッシュ、OK。
「じゃぁ、行ってくる。」
「行ってらっしゃい。」
「じゃぁ、おばさん。俺も。」
・・・・
「…おばさん?」
・・・・
「いえ、お姉さん。じゃぁ。」
「えぇ、蘭を頼んだわね。」
靴を履き、家から出る。
「良し、じゃぁ行くか。」
「あぁ。」
―――例年より、開花が早いとニュースで言っていた通り、
桜は早くも満開を通り越して散っていくところだ。
―――今日は、入学式。
……二年に進級した俺たちには、特に関係の無い行事だ。
「おはよ、蘭。」
「おはよう、里居。」
「おぅ。」
「私は、蘭に挨拶をした。」
「……毎度、ひどくないか?」
そして、三人で学校まで歩く。
一年の途中からの習慣だ。
初めは、挨拶もろくにしなかったが、今では軽い会話をしながら三人で歩く。
学校までの、二十分程度の通学路を、俺たちは三人で歩いていた。
――――――――≪ラ・カンパネラ≫――――――――
長い校長先生の話を聞き流すと、入学式なんて楽勝だ。
……勝負じゃないと思うけど。まぁ、そんな事はどーでも良い。
一年四組の教室に入り、これから仲良くなっていく予定のクラスメイトをながめているところで、担任が入ってくる。
それからは、お決まりの自己紹介だ。
出身中学とか、趣味とか。みんなはほとんど同じ内容を言っている。
ショージキ、こんな自己紹介は顔見せ程度の役にしかたたないんだろうなぁ〜。
と、思っているところで、隣の席に思わぬ伏兵がいた。
「I中学出身、斉藤・ヒャッホウ・マルクス・佳奈美です。
二年一組に兄がいてます。いつも、エアーガンで撃ち合ってます。
兄が教室に来たら伏せて下さい……邪魔ですから。
趣味は、サバゲーです。えっと……以上。」
ざわ…ざわ…
教室がざわめく。
(おぃ、何だよ。結構良いと思ったら、ヤバイ奴みたいだぞ。)
(まぁ、面白そうだし良いじゃん?)
「よろしく。マイシスター。」
席に座った彼女、斉藤・ヒャッホウ・マルクス・佳奈美がアタシに握手を求めてきた。
「うん、ヨロシクッ。」
折角だから、思いっきり握ってやった。
「………」
「………」
互いに見つめあい、強烈に握り合う、乙女が二人。
「あぁ〜、成元さん?自己紹介を…。」
……担任は、置き去りにされていた。
「ハッ、センセイ。ゴメンネッ!」
一つ謝って、握手を止める…結構手が痛いし、かなり赤くなってる。が、関係無い!
コホン、とまずは注目を集める。
「成元 幸代でっす。
中学は、H県だったから名前を言っても分からない人が多いと思いまっす!
親の仕事の都合で、コッチに来ましたっ。これから、ヨロシクッ!!」
……決まった。
結構な好印象でこのクラスの男子はアタシにメロメロさっ!!
(………あれ、手がメチャクチャ赤いぞ)
(……かなり赤いな。つか、怖ぇぇよ。アレは。)
………みんな、アタシの真っ赤な手に夢中だった!!
「フフッ、計画通り。」
「な、なんだって〜〜!?」
隣の奴は結構な策士だった!!
この後は、軽く日程を説明されると解散。
中庭で各部活の軽い説明があった。
アタシは、特にやりたい部活が無いので、
適当に全てをあしらうって校門を通り過ぎようとした。
そこで、ふと、校門近くの桜を見た。
例年より、散るのが早いのか。
桜は、既に半分ほどが散っていた。
こうしている間にも、どんどん散っている。
―――ざわ、と風が吹く。
ちょっとした強風だ。桜の花びらがアタシの前から後ろへと流れる。
つい、その行く先が気になって、後ろを見たところで、アタシの思考は完璧に停止した。
――――――綺麗な、人がいた。
身長は、アタシと同じくらい。160あるかどうかってトコだろう。
男子の服をきているので、一応、男子なのだろうが、
風で舞っている髪は男子にしては長すぎる。
……というより、女子でもいないような長髪だ。腰のあたりまであるんではないだろうか。
でも、その人の顔があまりにも綺麗で。全く違和感が無い。
というか、どちらかと言えば、可愛いという分類になるのだろうか。
―――その人は、桜の花びらに手をかざしていた。
既に、散っていった桜のことなんて、眼中に入らない。
……ヤバイ。これは一目惚れなんてモノじゃないぜ、ベイベー。
胸の高鳴りを抑えて、アタシはその人の眼前まで走った。
「……?」
その人は、少し、面喰った表情をする。
もう、可愛すぎるだろ。この人。
「アタシと結婚しませんか?」
「―――――――は?」
「しまったっ!今のはナシ。はしょりすぎたぁぁっ!!」
校章の色からして二年生のようだ。よし、ここは敬語で決めよう。
「アタシの嫁になって下さいっ!!」
「………いや、それは無理だろっ!」
ハッ!!またしてもはしょった。
落ち着け、アタシッ!!
目をつぶって、深呼吸だ。
スッスッハー、スッスッハー。
「良し、センパイ。アタシの為に味噌汁を……ってアレェ〜〜ッ!?」
「じゃぁ、バイバイ。」
先輩は他の人たちと一緒に、既に退避していたっ!!
「……でも、『バイバイ。』かぁ………。」
挨拶されただけで、メチャクチャ嬉しい。
おかげで、しばらく、アタシは変な子扱いされていた。
―――――これが、アタシ。成元幸代と藍原蘭の出会いだった。