夏真っ盛り、気温は30度を常にキープをしているという時期。

「「やってきました。青い海〜〜!はぃ、拍手〜」」

「わー、パチパチ。」

俺たちは全員で海水浴に来ていた。

「なぁ、蘭。虚しくね?

「言うな、馬鹿。」


こいつの言う虚しいとは、つまり、メンバーの事だろうか。
しかし、容姿だけならこの海にいる人間でもかなり上位の女子が

4人もいるのに何が不満なのだろうか…いや、俺には分かるが。

「……おいしい。」

里居は、スイカを手刀で割って食べている。
その、水着はおそらく見た目よりも機能性を重視したのだろう。
スタイルは良いと思うのだが、色気の欠片も見当たらない。

「美恵ちゃん。その食べ方は色々と間違ってるから!いや、私は別に欲しいんじゃなくて…」

田崎先輩は里居に絡まれてる。
あ、スイカの種をかけられた。三連発で。

「ふふふ、玖美。まさかアタシ達が雌雄を決する時がくるなんてね。」
「ふふふ、未久。まさかアタシ達が雌雄を決する時が来るなんてね。」

あの姉妹は元気だ。
今は、ビーチバレーを一対一でやっている。
…いやいや、何で出来るんだよっ!



「なぁ、蘭。平和だな。」

「……平和だ。」

男二人は和んでいた。



「って、和んでどうするっ!!

「うゎ、でかい声出すなよ。ほら、みんなこっち見てるぞ。」

友人は自分の大声にすこし反省したような素振りを見せつつ、言う。

「…海だぜ。青春真っ盛りの高校生として、ナンパに行くしかないだろ?

「何年前の海水浴場なんだよ、その発想は。少し、周り見てみろ。」



友人の顔を周りに向けさせる。



「……。」

「な?海水浴に来るのは、大体はカップルか家族。
ナンパって発想も古いし、高校生がするようなもんじゃない。第一、する相手がいない。」

「……んん。」

「そこで、だ。」

途端、暗くなっていた友人の顔が明るくなる。

「おぉ、策があるのか!?

あぁ…あるさ。相棒。

「コレだ。」

俺はある鍵を友人に見せながら言った。



「あれ?藍原クンたちは?

「「あぁ。蘭がさ〜、前に屋台のバイトを申し込んでたみたい。」」

「へえ?こんな所に来てもバイトするんだ。」

「「ん〜、まぁ、蘭が売り込んだら、絶対に客が来るしね。男女問わず。
あ、あっちの焼そば屋だったと思うよ。」」

「…ねぇ。屋台の店主とかはいないの?どう見ても藍原クンと柳野クンだけだよね。」
・・・・                            
「「あぁ。店主が急な用事で無理になったみたいだよ。蘭が言ってた。」」

「……。藍原クンって結構ワル?」

「「まぁ、店主がいれば、客の女の子に手を出せないからね〜。ん?どったの?美恵っち。」」

「……結構、繁盛してるね。」

「「まぁ、蘭だしね。」」

「……蘭、客の女の子に手を出すのかな?
・・・・    
「「まぁ、あれでも青少年だしね。」」

「……………。」

「美恵ちゃん!スイカを握りつぶさないで!

普通に怖いから怖いから!!というより、何で、片手でそんな事が出来るの!?



「なぁ。」

「ん?どうしたんだ、蘭。」

「何か、男どもの視線が厭なんだが…。」

「あぁ…まぁ、仕方ないわな。
ぶっちゃけ、女の子が上半身裸で、海パン履いてるようなもんだし

…いやいや、事実だからな!?ジュージューいってるヘラをこっちに向けるな!」

……不愉快だ。しかし、まぁなんだ。

「結構、楽しいよな。こういうの。」

「へ?

分からないか、こいつは。



つまり、

「高校に上がってから、二人で遊んでなかっただろ?
やっぱりさ、お前と馬鹿やったりするのは楽しい。」

「うん、楽しいよな。…けど、そのセリフは結構きわどいけどな。」

「なにがだ?

「だから…前。」

言われて前を見る、と。

「………………あ、のっ!

「………え、とっ!

…客の女の子が二人。顔を赤くして硬直していた。

「「お、お幸せに〜〜〜。」」



焼そば2つ。600円の勘定を置いて脱兎の如く去っていった。



そんな一日にも終りが来る。
騒がしい筈の姉妹でさえ、遊び疲れたのか電車の中ですやすやと寝息を立てている。
いや、寝息を立てながら、姉妹で指相撲をしている所が可笑しいのだが。

兎にも角にも、自分の最寄り駅。

姉妹は寝ているので、起こさないでおき、その監視役を田崎先輩に譲る。
先輩に挨拶を一つし、三人で電車を降りる。


「…疲れたなぁ〜、蘭」

「……まぁ、それだけの収穫を得たわけだが。」

「……お前はな。」

「お前だって、それなりの数だろ。」

…この場合の収穫やら数やらは、異性のメールアドレスやら電話番号のことなのは、

里居は知らない…筈だ。



程無くして、友人と別れ、里居と二人で歩く

…いや里居は俺の2歩ほど後ろを歩いている。



と、そこへ。

―――蘭。」

久しぶりに、本当に久しぶりに里居が俺の名前を呼んだ。
内心の驚愕を押し殺して、振り返る。

「ん。」

右手を差し出す里居……何かが欲しいのだろうか。

「……ん。」

せっかくだから、握手をしてみた。
と、不意にグイと手を引かれる。

――――――??えぇ?ちょ、お前どこに手をっ。」

里居は俺のスボンのポケットを探り、携帯を取り上げる。


「え??えぇ?それ、俺のだぞ?

――――――知ってる。新着メールが20通も来てる携帯。」

未だ状況が分からない俺。

サイレントマナーだったから、分からなかったんだろうか。
サブ画面を見つつ、里居は俺に言う。

「……恐らく、全部女の子から。
それも今日、口説いた人たち。」

…あの、人害姉妹。ばらしやがったな。
一応、責任者はあの姉妹なので、あいつらには連絡を入れたのだが…。
他言無用と厳重に言っていたはずだ……まあ、関係ないか。

「…だから、何だよ。
俺だって高校生なんだから、女子とメールしたって……っておぃ、見るなよ。」

―――from:栄子  subject:(non title)……消去。件名くらいつけろよ。
―――from:
良美  subject:来週空いてる?……消去。空いてない。
他、18名。消去……拒否リストに登録。ロック番号変更。アドレス帳からの消去、完了。」

…何やってんだ、こいつは。

「おぃ、さと……ムグー。ンガァー。」

―――蘭。」

俺よりも身長が高い里居に抱きかかえられる…というより、

こいつ、俺を窒息させるつもりか!?
ってか、力強すぎ、強すぎ!!締まってるよ、おい!!

「ケホッ。カハッ。」

ようやく解放した里居だが、今の体勢は拙い。
さっきまでよりは良いものの、後ろから里居が俺を抱きしめている形になっていて。
その、俺の背中に密着するものがあって、色々とよろしくない。

―――蘭。」

もう一度里居が俺を呼ぶ。
この体勢では、こいつの表情が分からないが、少し悲しげな声。

―――ハァ。」

そして、満足げな声。

「…ハァハァ。ゲヘヘ。」

…危ない声。

「これは…お仕置きだね。私以外の人からメールを受け取ったんだもの…フフフ。」

「いや、お前のアドレス知らないし!ってか、俺の自由は!?

「大丈夫……その内、痛くなくなる。むしろ、ねだってくる。」

……何を!?!?

―――――――ナニを。」



心の中の声に突っ込まれた!?

―――――次はどこへ突っこ……って蘭。逃げない。」

「普通は逃げるわ!!じゃあな!バイバイ。」

少し怒りつつも、挨拶をして別れる俺。
全国レベルの俊足をとばしながら、家へと逃げ帰った。



「あ、うん。バイバイ…って、逃げられた……。」



里居は、その10秒後に俺の部屋に入ってくるのだが…。

 

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