勢いよくドアを開け、おい大変だと叫んでみる。
「春ポン、2月だと思ってたらいつの間にか夏が終わってんぞ、おい!」
「開口一番言うことがそれかよ!?」
飛んできた雑誌を叩き落とし、まあ落ち着くようにとのジェスチャー。
「月日が経つのは早いものだ……」
「しみじみ言ってんなよ、いやマジで」
大丈夫だ。まだ慌てるような時間じゃない。
「それよりも、アーセナルが終わってる件について」
「マジではったおすぞ!?」
落ちつけよ、某番組の移籍市場評価で勝ち組だっただろ。
「とりあえず、家からセスクのポスター持って来てやったぞ」
「いらんから帰れ!」
「じゃあ、このナスリのポスターを――」
「出てけよ!」
取り付く島もなく、尻を蹴られて部室から放り出され――
「なあ、春ポン……」
「あぁ!?」
「あれだったら、アデバヨールの――」
「舐めてんのかよ、それよりあんたはインテルの心配してろよ!」
「――――――」
本当に、どうしようもない。
秋になり――部活も生徒会もなく退屈している今日この頃……。
大人しく帰ろうかと、一人寂しく部室を後にした。
――2008年10月24日――
自分の下駄箱をあさっている変態を見て、怪しまない人間はただのアホだろう。
とはいえ、件の変態が見知った顔で、尚且つその異常性を熟知していたのなら、スルーも有り得るのではないだろうか。
「――――――」
いや、しないけど。
「おい、何やってんだ変態」
「――ん、久しぶり」
というか、この変態は受験勉強とかする気あるのかと小一時間ほど問い詰めたい。
こいつの頭の悪さは、それはもう脳生えてる毒キノコに栄養持ってかれてるんじゃないかと心配するくらいだ。
「――いま、アタシのこと馬鹿にした」
「いつも馬鹿だと思ってるよ。いいから、そこどけ。靴が取れないだろ」
いつものスニーカーに履き替えた後は、不本意ながらも里居との帰路となる。
「なあ、お前さ。勉強とかしないのかよ?」
既に10月。推薦入試はもう始まっている頃で。
この馬鹿が入るなら、それを狙うしかない訳で。
柄にもなく、説教じみたことを言ってしまう。
「体育系の大学は無理だし。サーカスしか就職もないだろ」
「――そんな心配いらない」
俺だって好きでこんなこと言ってる訳じゃないけど。
「俺がお前らの人生メチャクチャにしたって自覚ぐらいはあるんだよ」
だから何をする訳でもない。
俺に何かさせたいなら、させてみろというスタンスで、今は生きているのだけれど。
「面倒なんだよ、野たれ死なれたら夢見が悪くなる、不快だ、気持ち悪い」
「――ならお嫁さんに貰ってくれればいいのに」
「それは嫌だ」
お前が嫁とか、考えるだけでお尻が痛くなる。
「お前と付き合えるほどマゾくないから無理だろ」
「――責任もって開発するから!」
いや、そんなこと力説されても……。
というか、自信満々に言われても困る。
そう思い、文句の一つや二つ投げてやろうかと顔を見て――
唐突に、真面目な面持ちで問いかけてきた。
「――蘭はどうするの?」
「大学?」
「――そう」
「黎明かな、ちょっと遠くに行きたい気分だし」
「――じゃあ、アタシもそこ行く」
いや、無理だから。
お前、勉強してないじゃん。
「杏仁豆腐より軽い頭してんのに、何言ってんだよ」
「――無理なの?」
わりと可愛くキョトンと呟く里居。
去年3学期の平均30点というウルトラCを見せてくれたこいつが大学進学?
「無理、99%落ちる。まずお前の平均点を3倍にしてこい」
なのに、こいつは自信満々。
絶対に受かる。3倍程度なら余裕だと。
蘭が行くならアタシはどこでも――そんな、健気なことを言ってくるから。
「……真剣に勉強してみるか?」
つい、そんなことがポロリと出てしまっていた。
「――お願い。アタシ、絶対に頑張るから」
暇だし。
難易度高いし。
じゃあ、とりあえず本屋行くぞと角を曲がる。
「――ねえ、本当にアタシでもいける?」
「お前、誰にモノ言ってんだよ」
俺が教えたら、そりゃあいけるに決まってんだろ、舐めんなよ。
数ヶ月あれば十分だ。こいつがどこまでいけるか、俺も少し興味がある。
と、張り切って里居の家に着き。
過去の成績を見て一言。
「1学期の平均点、10点て……なんだこれ」
おうジーザス。
結構ヘビーなゲームになりそうだから――
「――うん、3倍は余裕」
「お前、今日から椅子に縛り付けていいか?」
呑気に茶を飲んでる馬鹿女をハリセンで叩くと、溜息一つ。
とりあえず、割と真剣に提案してみた。
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