「卒業、おめでとうございます。先輩」

 

「うん、ありがとう。」

 

「―――蘭が……なんかデレてる」

 

「いやいや、何言ってんだ!?

 

「―――先輩も、なんか嬉しそう。」

 

「え!?いや、その……アハハ。」

 

 

 

卒業式の終わり、部の後輩一同から花束の贈呈。

俺と里居は田崎先輩へと渡すことになった。

その数m離れた所では―――

 

「ぎょえぇぇぇッ!?!?

 

「「何で、蘭じゃないんだよ―――!?」」

 

「俺のせいじゃねぇっつってんだろ―――!!

 

「「うっせ―――――!!!!」」

 

「ギャベ―――――ジ!!!

 

―――愉快な事になっている。

1年は卒業式に参加しなくても良いので、

成元は打ち上げから合流ということになっている。

 

「―――はい、そこの若者!!そろそろ行くよ!!

 

駐車場から喜美恵さんが呼びかけてくる。

 

「じゃ、行こっか」

 

田崎先輩が花束を抱えながら車に乗り込む。

その後に、里居。俺は助手席。

 

「おい、人害!!ほってかれたいか!?

 

「「いやいや、主役をおいてくなよ!!」」

 

3列シートの一番後ろに姉妹が乗り込む。

 

「お、俺は――――!?

 

健太の問いかけに―――

 

「……………」

 

「―――――――」

 

「……………………」

 

「「……………………………」」

 

―――沈黙する一同。

そういや、コイツのこと。数に入れてなかったっけ?

 

「―――走ってろ。」

 

毎度のことだが……里居。

お前、健太に何かの恨みでもあんのか?

 

「嫌じゃ、ボケェ!!おら、乗せやがれ!!

 

ドアをこじ開け、体をねじ入れるように車内に入ってくる馬鹿が一名。

―――って、お前。何で助手席に入ってくんだよ!?

 

「せめて、後ろに行けクソがッ!!

 

冗談じゃ無い、何が悲しくて男と一つの座席を共有しなければならないのか。

 

「うっせ!!後ろに行ったら、ボコられるだろうが!!

 

「ボコられろ!!つーか、俺がシメるッ!

 

元々、お前の無駄にでかい背(180cm)が気に食わなかったんだよ!!

俺は腕を振り上げようとして―――

 

「って、クソ。手を動かすスペースも無い。」

 

―――その事に気づいた。

 

「……お前ッ、密着しすぎなんだよ!!気持ち悪ィ!!

 

「そんなこと言うなよ、俺達の仲じゃないかー。」

 

……あ、コイツ。鬱陶しい。

 

「はいはい、そこの二人。舌噛まないように。」

 

言って、車が走り出す。

赤信号、道路表記その他もろもろを置き去りにして走る。

―――後の人間の怨嗟が聞こえた。

 

「「柳野、後でブチノメス。」」

 

「潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す。」

 

「……なあ、健太。思ったこと、言って良いか?

 

「やめてくれ。俺も、希望を持ちたいお年頃なんだ。」

 

「♪〜♪〜♪」

 

喜美恵さんがノリノリで車内音楽を変える。

出だしからアップテンポで、ギターの格好良い。

でも―――たしか、この曲名って……。

 

「へぇ、良い感じの歌だな。蘭、知ってるか?

 

「―――End Of All Hope

 

「…………。」

 

「♪〜♪〜」

 

「健太、土葬と火葬…どっちが良い?

 

「おい!?!?

 

とかまあ、そんな…いつも通りの感じで。俺達は卒業式の日を終えた。

 

 

 

 

 

―――――≪風景≫―――――

 

 

 

 

 

今、見ているのが夢だと分かることがある。

明晰夢……だったか?

多分、もうすぐあれから一年だから―――なんだろう。

有り得ない。そう、この世界では有り得ないことだ。

 

―――夢の中で、俺は空を飛んでいた。

翼を背から12枚も生やし、莫迦でかい刀を持っていた。

 

―――夢の中で、俺は吹き飛ばされていた。

何度も、幾度も、恒河沙だろうか、阿僧祇だろうか、那由他だろうか。

数え切れないほど這いずり回っていた。

 

―――夢の中で、俺は磔になっていた。

両手両足を十字架に括られ、脇腹を抉られんとする磔刑。

その瞬間、刹那すら長く感じる虚空。

その後に迫る結果を回避しようとしていた。

 

―――夢の中で、俺は翔けた。

時間を踏み、涅槃寂静を翔けていた。

翼が拡がり、刀が変質していた。

 

 

 

q pact vivet an vig felix in tra hom et ven postea int nos maled D.

 

 

 

そして、夢が終わった。

 

 

 

「って、寝るな馬鹿ぁ―――――!!!

 

「ん?

 

ハッとして顔を上げると、生徒会室だった。

確か……俺、帰宅部(はぁと)の打ち上げに行く途中だった筈だが?

 

「―――ミステリーだ。」

 

「なにがよッ!!

 

バチリ、と手で頭を叩かれる。

 

「うぁ……いたひ」

 

「あのね、お別れ会で寝るのって失礼じゃない?

 

襟首を絞めながらゴゴゴゴゴ、と背景に炎を纏う副会長。

口調こそ穏やかだが、眼と行動だけでも剣呑極まりない。

 

「つーか、さ。俺、帰宅部(はぁと)の打ち上げが……」

 

「藍原君。あのね、私さ。

不本意だけど、貴方の能力とか容姿とかは評価してるのよね。」

 

尚もギリギリと首を絞めてくる。

 

「ギブ!!ギブギブ!!

 

パシパシと副会長の腕を叩いて抗議する。

 

「でもさ、そういう態度は良くないんじゃないかなぁ?

 

コクコク、と操り人形よろしく首を縦に振る。

 

「分かれば宜しい。」

 

ようやく解放される。

見渡すと、元生徒会役員と卒業する元生徒会役員が揃っていた。

 

「――――――。」

 

元生徒会長が何か、みんなに言っている。

別れの挨拶だろうか。

 

「あ、そうだっけ。」

 

そーそー。思いだした。

車内で副会長から電話がかかってきたんだっけ。

それから生徒会室に戻り、お別れ会。

元生徒会長のありがたいお言葉が長すぎて、眠くなったのだった。

 

「つーか、あの人。何分くらい喋ってんだ?

 

30分ぐらい喋りっぱなし。」

 

「―――そりゃあ、眠くなるよ。」

 

「そうだけど、ね。」

 

「―――ん。」

 

「会長と副会長くらいは話を聞いてあげても良いじゃない?

 

「―――。」

 

「だから、出来るだけ寝ないように。」

 

「―――。」

 

「だから―――寝るなっ!!

 

「うぁッ!!

 

夢の世界へ船を漕ぎ出そうとした瞬間。

副会長の声で意識を取り戻す。

 

「ぅぁ―――つーか、アンタも辛いだろ?

 

「そりゃ―――まあ、かなり退屈。」

 

「よし、良い加減、終わらせるか。」

 

「うん、お願い。」

 

俺は、椅子から立ち上がり、

完全に自分の世界に旅立っている元会長を黙らせた。

 

 

 

 

 

「「お、重役出勤だ―――!!」」

 

「黙れ、人害。」

 

時刻は16:00

陽が傾き始めたころに、俺は帰宅部(はぁと)連中と合流した。

 

「―――蘭、一つ。訊いて良い?

 

里居が人害姉妹を放り投げる。

 

「―――ん?

 

人害姉妹は互いに縺れ合うように回転したが、体勢を立て直して着地。

―――やっぱアイツら、人間じゃねえ。

 

「―――その子、誰?

 

俺の半歩後ろにいる奴を指さして、そう問いかけた。

 

「ウチの生徒会副会長。名前は―――何だっけ?

 

「宮野結衣です。」

 

「そう、そんな名前だ。」

 

「人の名前ぐらい覚えておきなさいよ。」

 

噛みつく副会長を、まーまーと諌める。

 

「―――蘭、アタシすごく怒ってるの、分かる?

 

「「――――――え?」」

 

異口同音。同時に俺達は声を上げた―――

 

「―――ッ!!

 

―――刹那、俺は副会長を抱えてその場から離れる。

 

「―――やっぱり、避けるのは巧いね。」

 

「いや、お前。それは―――」

 

バイト先―――ジャック・ザ・マスターの階段(煉瓦)が崩壊する。

無論、それを引き起こしたのは里居の拳だ。

そして、その拳には何の損傷も見られない。

 

「おいおい―――洒落にならないぞ?

 

「―――だから?

 

待て、コイツ。こんなに短気だったっけ―――!?

 

「ちょっと、藍原君。離しなさいよ。」

 

「―――潰す。」

 

「って、やめろ馬鹿―――!!

 

副会長を庇うように里居の前に出て制する。

 

「どうどう―――。」

 

「―――ガルルル」

 

機嫌の悪さを隠さない里居。

その剣呑さは、今にも俺の手を噛みつきそうなほど。

 

「あら、これまた可愛い子を連れ込んできたわね。」

 

きゃ、と可愛い声を上げつつ振り向く副会長。

その視線の先には、言わずもがな向田喜美恵。

 

「―――ぐう。」

 

それに毒気を抜かれたのか、拳を下ろす里居。

そこでようやく俺は緊張を緩めた。

 

「よっこいしょ。」

 

倒れている健太の上に座り、成元からジュース瓶と栓抜きを投げてもらう。

ジンジャーエールの蓋を空け、放って返す。

喉を痛くなるほど冷たい炭酸が灼く。

 

「―――蘭、アタシも。」

 

「ほら。」

 

一気に飲み干し、空になった瓶を里居に渡す。

 

「―――――――――。」

 

「それ。ちゃんとケースに直してくれよ。」

 

「―――――――。」

 

里居は、しばしの行動停止の後。

 

「って、何やってんだお前!?!?

 

空になったビンの飲み口に口をつけた。

 

「――――――む、アタシにくれた筈。」

 

「やっぱり返せっ!何か持たせてると危ない!!

 

何が危ないかと云うと、精神衛生が危ない。

こんな奴でも友人だ。狂ってる所を見たくない。

 

「お前ら、飲めや―――!!

 

喜美恵さんが生中のジョッキ片手に叫ぶ。

 

「「学生にアルコールを勧めないで下さい!!」」

 

呼応するようにそれを止める、田崎先輩と副会長。

……どうやら真面目キャラ同士で気が合うようだ。

 

「蘭、助けてくれ―――!!

 

「逃げるな、クソ兄―――!!!

 

俺に駆け寄ってくる斎藤とその妹。

妹の方はビール瓶を片手に、兄へビールを浴びせている。

 

「お前、ガタイの割にはアルコール苦手なのかよ?

 

アルコール                  

「あんな兵器は、人間が摂取するもんじゃねぇ!!

 

そうかよ、と嘆息しつつ座ったままで妹を諌める。

 

「男同士で話するから、妹さんは家帰ってから好きにしてくれ。」

 

「む、藍原先輩か。そうだな。先輩の言う事は聞くぞ。偉いだろ?

 

「…あぁ。偉い、偉い。」

 

「そうか。ならば頭を撫でてくれ」

 

――――――。

 

「よしよし。」

 

「次は胸を―――。」

 

「って、てめぇ。兄貴の親友に何をお願いしとんじゃコラァ!!

 

「む、いたのか?クソ兄ぃ。」

 

「あー。兎に角、妹さんもほら、あっち混じってこい。

後でまた喋ってやるから。」

 

しっしっ、と我ながら邪険に扱う。

 

「ならばしょうがない。里居先輩に慰めてもらおう。

しかし先輩。後でちゃんと揉んでもらうぞ。」

 

「……いやいや。そんな事言ってないからな!?

 

不吉な事を言い残して、斎藤(妹)は里居の方へと駆けていく。

 

「ほら、お前も起きろ。」

 

「グォッ!!

 

下に敷いていた健太を叩き起こすと、男3人で仲睦まじく(?)会話を始める。

 

「じゃあ―――」

 

「―――来年度も―――」

 

「―――出来れば、同じクラスだな。」

 

ああ、と3人同時に頷いて。

同時に、斎藤が持ってきたコーラを合わせる。

 

「「「乾杯。」」」

 

そして、数秒後。

 

「って、蘭!俺のコーラにラムネ入れるなよ!!

 

健太が何か言っていたが気にしない。

俺達はコーラを一気飲みして、同時に咳き込んだ。

 

 

 

……コーラを飲むとき、口にラムネを含む。

また、コーラの中にラムネを投入する。

そうすれば愉快な事になる…まあ、多くの人が知っている、餓鬼じみた遊び。

だが、それは案外楽しくて、止められなかった。

 

 

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