CicatrixSimple

 

In the Future

 

Pawn

 

 

 

 

屋上―――死を運ぶ凶ツ風が吹く、その場所で―――ようやく俺は狂人と対峙した。

 

「さて……もう邪魔は入らない。ゆっくりしようぜ。」

 

「―――――えぇ、そうね!

 

「―――――――ッ!?

 

刹那、俺の目の前で炎が爆ぜる。

後方へと跳躍し、奪った銃で狙いをつける。

 

「クソ―――重いな、コレ。」

 

手にしたAKMは左腕だけで持てるような代物では無く、

右腕で支えようにも、力が入らないのでは意味が無い。

結果、狙いは逸れ―――狂人がさらに間合いを詰めてくる。

 

「―――そぅら!!

 

「ちィ―――当たってろ!

 

飛んでくる炎を躱し、勘任せに撃つ。

無論、これが決定打になるとは思えないが―――時間稼ぎにはなる。

 

「ゆっくりしようぜ―――って言っただろう?

 

弾丸を新たに装填しながら、思考を高速化する。

さらに10を超す炎の塊が襲ってくる。

拳ほどの大きさのソレは、屋上を溶かしていく。

 

「ほら―――ほら、ほらほらぁ!

 

 

狂気に歪んでいく顔、“ヒト”からかけ離れていく右腕。

それらを見て、俺は内心で狂喜した。

何故なら―――コイツは、“良い”んだな?

 

そうさ、そうだ―――コイツは人間じゃない。

なら―――俺の制約に意味はない。

手を洗い、喉を潤して、腹を満たそう。

 

 

「ハハハ――――アハハハハハハァァッ!!!

 

嗤いが止まらない。そうさ―――今日は人生初めての晩餐会。

手を洗い、喉を潤して、腹を満たそう。

里居たちに顔を見られない場所で良かった。

 

こんな楽しそうな顔―――見られていたら、人格破綻者だと思われる。

 

 

「ハハッ、クヒッ、ハハハハハハ―――礼がまだだったな。

みんなを殺してくれてありがとう。心底から感謝する。」

 

あんな奴ら、別にどうなろうと知った事では無いが…。

殺してくれなかったら、俺はコイツを人間だと認識したままだったろう。

 

 

そう、霊には礼を尽くそう。死者は崇め、ただし―――

―――生あるモノは、殺し尽くせ。

 

 

愉快痛快―――暴力的なまでの快感が体を駆け巡る。

そう―――

 

 

「“殺す”。」

 

 

ただ一言。それを言えた瞬間―――世界が変わった気がした。

だが、それも一瞬。その次の瞬間には、理性が全てを押し込める。

 

「お前は、俺の日常を壊した―――退場してもらうぜ。」

 

 

―――身体能力の差は歴然。里居美恵なら拮抗出来るだろうが、

俺にあのレベルの能力は無い。

なら―――頭を使うしかないだろう。

 

既に、仕掛けはある。問題は、ただ一点。

 

 

「まぁ、時間が無かったからしょうがないんだけどな。」

 

自嘲気味に声を漏らし、屋上を駆けた刹那―――

 

―――僅かに遅れて、俺がいた場所を炎が焼き尽くした。

 

 

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